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『経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ』


経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)
(2012/08/17)
佐伯 啓思

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 私は1970年生まれ。バブル世代の少し後の生まれです。順調にいっていればバブルの恩恵の残りカスを受け取ることができたのかもしれませんが、人生は波瀾万丈、一寸先は闇ということで、浪人を繰り返していた私は時代に完全に乗り遅れ、全くその残渣を味わうこともありませんでした。そして残渣を味わうどころか、大学を卒業する頃は失われた10年のスタートで、就職活動はことごとく失敗。何とか友達の紹介でデザイン事務所に入ったというのが私の20代前半です。

 がんばりが認められない社会って何なんだろう。

 思いが通じない社会って何なんだろう。

 青臭い20代の私は、バブルへの疑問と、仕事と人生、社会と経済といったことを鬱々としながら狭くて小汚いアパートで考えたものです。もちろん青臭いが故のエゴも相当あったと思うし、世間を見る目も狭かったと思います。また、元来の“長いものには巻かれるな!”的な無意識の意識も作用していたのではないかと思うのですけども。

 人よりも遅れて入った大学の時、私は一人の先輩に影響を受けました。年齢は4つ上で、その方も紆余曲折しながら人生を歩いてきた方。でも私と違ってその先輩はそれを卑下することもなく、ひょうひょうと自分の思考的テリトリーを拡げていくという方で、私はそこに共感と憧れをもってくっついて話をしていました。先輩と話す中で、経済学をもっとちゃんと勉強しても良いなぁと感じることもあって、少し突っ込んで本を読んでいきました。もともと私は経営学部ですので、経済学も知っておくべきものだとは思っていたのですが、そもそも経済って何?そもそもお金って何?というところを押さえたかったのです。そんなものに左右される自分が嫌だったので、先ずはその正体を見てやろう、そんな気分だったのでしょう。

 と、前置きが長くなりましたが、その後もことあるごとに経済とは何か?なんてことを考えています。お金儲けの話ではなく、どうしてこうも私たちは経済に左右されてしまうのか?というところの本質です。人間の心理とは別に、お金や経済が持っているそもそもの魔力のようなもの。その本質は何なんだろう?そういう感じで思考訓練の一環として。

 本書は『経済学の犯罪』というインパクトのあるタイトルが付いています。これは著者が感じる現在の経済への警鐘をそのまま言葉にしたものなのでしょう。新自由主義経済という名の下、ここ何年かで世界のグローバル化は急激に進みました。そして中国のような大国が本格的に経済力も付けてきて、混迷を極めていたロシアも豊富な資源を活用して資本主義に参入。この劇的な変化で生き残りをかけたTPPの是非。時代はどこへ進もうとしているのか。

 本書は具体的な経済政策を論じるものではなく、経済というものがどういう所から出発したのかという根源的なところを考察しながら、どこへ向かおうとしているのかという思考実験のようなものです。資本主義の行き詰まりが様々なところで露呈する中、この社会を根本的なところから考えてみたい方にお薦めの一冊です。そしてその思考実験は、自分のありたい方向も見せてくれるのではないでしょうか。

 私は今、はり師という職人をしています。人生の紆余曲折の中で、もう後戻りはできない年代。今はようやく鍼を持つ姿も板に付いてきたような、ようやく職人の仲間入りができたような、そしてまだまだ腕を磨いていこうというめらめらとした気持ちも燃え尽きることなく臨床に向かえる。それはとても有り難いこと。もしかしたら私はバブルの恩恵を、反バブルという生き方で受けているのかもしれません。

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