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おわしますというだけで

 3、4年前まで私は修験道というものをやっていました。修験道とは、滝に打たれたり、山行をしたりと、荒行によって自分を磨くものです。修験道を“やっていた”と言っても、生活をしていかなくてはいけませんので、月に一回くらいのペースで山に行ったり滝に行ったりといった感じでした。一時はその方面でプロになろうかと本気で思ったくらいだったのですが、その後だんだんとこういった荒行では自分の心の悩みを解決できないと感じ始め、3、4年前にとうとう辞めることにしました。

 ちょうどこの時期は、所属していた修験道の会で、納めの行という一年の締めくくりの行をしていました。この一年の無事を感謝し、そして来年もまた無事に過ごせますようにという願いを込める、そんな感じの行です。この時期の寒さを感じるようになると、もう辞めてから三,四年経つとは言え、まだまだ思い出すことが多くあります。


 辞めるきっかけは様々あったと思うのですが、大きな理由の一つは、“神様を冒涜してはいけない”と感じたことにあります。自分の小さな願望のために神様にお祈りするというのは、なんともスケールが小さいことだと感じたのです。世間ではスピリチュアルブームが出始めた頃には、私の興味はそこにはなくなっており、もっと大きく心を見つめていかなくてはと思うようになりました。

 先日貝原益軒の『和俗童子訓』を読んでいて、私が修験道を辞めた理由と同じことが書いてありまして、いたく同調しました。それがこちらです。


子供の時から迷信を作らせてはならぬ ことば、非礼のわざ、をいましめて、なさしむべからず。又、道理なき、正しからざるふだまぶり(札守)、祈祷などを、みだりに信じてまよへる事、禁ずべし。いとけなく若き時より、かやうの事に心まどひぬれば、其心、くせになりて、一生そのまよひとけざるものなり。神祇(しんぎ)をば、おそれたうとびうやまひて、遠ざかるべし。なれ近づきて、けがし、あなどるべからず。わが身に道なく、私ありて、神にへつらひいのりても、神は正直・聡明なれば、非礼をうけ玉はず。へつらいひをよろこび給はずして、利益なき事をしるべし。



 とかく○○神社に行ってお守りを買わなくては!とか、どこそこのパワースポットに詣でなくては!とか、はたまた誰かはパワーフードなんて言って高級懐石料理を食べてるようですが、その心の根本にあるのは“欲”です。そんな小さな欲のために、神様が動いてくれるはずもないし、そんなことのために神様をこき使うというのは浅はかなことだと思うのです。

 今でも私は神社やお寺を訪れるのが好きですが、自分の願い事などしません。

 ただそこに“おわします”という空気に触れて、ありがたいと思うだけです。

 そこに“おわす”ということを思い、そしてまた自分を磨こうと思う、そういった確認をするのが神社であったりお寺であったり、そしてお正月などの区切りがあるのかなと感じます。

 こういう鍼灸師の仕事をしていますと、私に何か変わった力があるのではないかと思う人もいるのですが、全くもってそういうことはありません。全くありません。私はただただアホになって、バカになってなんとかもっと鍼をうまくなろうと思いながら日々を生きているに過ぎません。だから私にとっての開運法とは、“開運なんてしようと思わないこと”なのかなと思うのです。

貝原益軒著の『和俗童子訓』は、我が国初のまとまった教育論です。その内容は儒教思想が色濃いのですが、今に通じるとても有効な内容となっています。
養生訓・和俗童子訓 (岩波文庫)養生訓・和俗童子訓 (岩波文庫)
(1961/01/05)
貝原 益軒

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