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数学の問題を解くように(2)

 数学には公理や定理といったものがあります。例えば三平方の定理(ピタゴラスの定理)というものがありますが、これはすでに正しいことが証明されている普遍的な法則なので、「三平方の定理により」という一文を付けるだけで証明問題に使うことができます。これは公理や定理が、“誰がやっても普遍性をもつ正しいもの”だからこそ使えるツールという意味でもあります。

 東洋医学の五行論、陰陽論というものは、その方法論はとてもおもしろく、なるほどなぁと思うこともたくさんあります。しかし実際にそれらを治療に活かそうとするとなると、「いやぁ、理屈は分かるんだけど治療には使えないよね。」という先生も多いものです。実際に鍼灸学校の教科書を見ても、陰陽論や五行論を学ぶ教科書は、「東洋医学概論」という名称で、つまり“概論”的な扱いに止まっているのです。臨床論のような症状別の治療方法を解説した教科書ももちろんありますが、そこでは東洋医学概論で学んだ知識をを活かすはずですが、ほとんど東洋医学的な記述はないに均しかったりもしますので、さらに東洋医学系の授業は試験対策で終わってしまう、ということも多いように思います。

 しかし私のような古典的な治療をしているものにとって、陰陽論、五行論といったものは、数学の問題で言う定理や公理のようなもので、普遍性をもったものです。この定理や公理をうまく運用して身体を分析し、治療のツボや治療の方法を決めていきます。数学の問題に対処するときに、その前提となる定理や公理を疑ってしまうと、問題を解くことはできないわけで、それ以前に、数学という理論体系が成り立たなくなります。ですので、私は陰陽論、五行論というものを当たり前のものとして、疑いなくフルに活用して鍼灸治療に挑んでいます。

 流派の違いや考え方の違いはどこの世界にもあることですが、殊、鍼灸の世界にはその差が顕著であったりします。私のように、公理や定理として東洋医学の理論を使っている先生もいれば、それを否定して、現代医学的な解釈を優先して公理や定理としている先生もいます。どちらが正しいとか、どちらが間違っているかではなく、患者さんを治すと言う“解”をいかに求めていくかという姿勢の違いに過ぎません。数学の問題で言えば、補助線の引き方のポイントが、各先生で違うと言うことでしょうか。

 東洋医学の古典を紐解くとは、私にとっては数学の定理や公理を発見し、公式を作っていく作業に似ています。そこにはまだ眠っているヒントがたくさんあり、表面だけの理解だけではその真意に辿り着けません。その手前で十分理解していると思ってしまうと、進歩は止まり、せっかく得た知識を活かしきれないばかりか、それは使えないと言って、かえって自分の判断で定理や公理までをも否定してしまうこともあります。こうなると完全に独善的になり、東洋医学の学問体系を無視してしまうことになってしまうことも。そうならないための基準作りのためにも、私は陰陽論、五行論、脉診、腹診といったものを大切にしています。そしてそれで正解(=患者さんの身体が改善する)が出せるのですから、普遍性のあるものだと思います。


 先日ある古医書を読んでいたときに、そのシンプルで理論的な解説と、信実のもつ美しさにはっとさせられて、思わず涙が落ちてきたことがありました。自分の身体が大好きになるくらい、すごくすごく愛おしさを感じ、何だか涙が落ちてきたのです。それは数学の問題を解けたときの爽快感というか、明快さというか、感動というか、そういったものに近いものです。お正月にちょっと奮発して購入した古医書の記述なのですが、奮発した倍以上の贈り物を古人からいただいた、そんな気分でした。
 数学の問題を解くときに、ピタゴラスの定理やメネラウスの定理など、数多くの数学者が導いてくれた定理や公理を使いますが、それは東洋医学の医家が遺してくれたものと重なります。

 久しぶりに、数学の問題集でもやってみようかな・・・と思うのです。



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