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未病治か?治未病か?

 先月の全日本鍼灸学会で、赤門鍼灸柔整専門学校の浦山先生が、『「治未病」なのか、「未病治」なのか』という発表がありました。

 未病という言葉は、東洋医学の原典である『黄帝内経』の中に出てくるもので、健康でもないけど病気でもない、でも放っておいたら病気になるような段階のことを指します。3、4年前の養命酒のCMに未病という言葉が使われていたので、それを機会に未病という言葉を知った方も多いかと思います。この未病の段階は、西洋医学では治療対象にならないことが多く、不定愁訴というバスケットネームで片付けられてしまうことが多いのですが、東洋医学では治療対象になり、東洋医学の得意分野でもあります。

 私が鍼灸学校に通っていた頃、今から13~14年前ですが、この頃は未病を治すことを「未病治」と呼んでいました。しかし鍼灸学校を卒業した後、しばらくして「治未病」と呼び方が変わっていきました。そのときは誰が言い出したのか分からなかったのですが、そのとき「治未病」という言葉を使った先輩に、「未病治じゃないんですか?」と聞いたら、「本文が治未病になってるから、治未病って言ったほうがいいって言う先生がいるんだよね。」ということでした。今まで「未病治」と言っていたものが急に「治未病」となり、読み方もチミビョウというあまり読み慣れない発音に面食らい、今もあまり馴染みを感じません。

 冒頭に挙げました浦山先生が、「治未病」と「未病治」との違いをお話ししていましたが、正直私はどっちでもいいと思いつつ、どんな見解が出るのか興味がありました。その予想通り、おもしろいことを教えてもらいました。
 お灸についての最も古い記述は『荘子』にあるといわれていますが、その中に「治未病」という言葉が出てくるそうです。これは「治未ノ病(ちみのやまい)」と訓読するそうですが、その意味は、「病気でもないのにお灸をする。転じて意味のない無駄なことをする。」というものだそうです。このことを知っている人、この故事を知っている例えば中国の人などは、「治未病」という日本の東洋医学用語を見ると、真逆の意味を思い出してしまうのではないかということでした。浦山先生のお話しでは、「未病治」が「治未病」に変わったのは、(メモし忘れてしまいましたが)ある先生がどこかに発表したコラムからだそうです。その先生がどれだけ影響力のある方か私は良く分かりませんが、かなり語気の強いコラムだったそうです。でもその根拠は、本文(漢文の原文)が「治未病になってるから」という理由だけだそうです。しかし本文がこの順番だからという理由だけで「治未病」にしないといけないというのは、言葉の持っている語感や浸透性などを全く無視したもので、センスのなさを感じます。日本語には中国の漢文から借りた用語がたくさんありますが(それは遣唐使などで文化を輸入してきたのですから当然のことですが)、たとえば言葉の成り立ちとして、動詞と目的語をくっつけた用語というものがあります。たとえば「物ヲ買ウ」で、「買物」、「書ヲ読ム」で「読書」などその例はたくさんあります。この例でいくと「未病ヲ治ス」ということで「治未病」と言っても無理はないようです。しかし、日本語(中国語もそうですが)は三つの漢字で成り立つ用語にどこか居心地の悪さを感じる、そういうセンスがあります。このセンスがあるために、「治未病」というのは用語ではなく、「未病ヲ治ス」という文章に相当すると言う感覚が出てきてしまいます。

 浦山先生のお話と、この言葉の持っている我々のセンスを考えると、「治未病」という言葉が一般に行き渡るとは思えません。私たち臨床に生きる鍼灸師は、あくまで目線は患者さんです。より多くの方に鍼灸を受けていただきたい、より多くの方に鍼灸で体調を調えて欲しいと願っておりますが、そのためには一般の方にもわかりやすい言葉を使っていく必要があります。そうなると、「治未病」なんて使ってもなぁと思うわけです。

 じゃあどうするか・・・?

 単純です。

 「未病治療」と言えばいいのです。「未病治」よりも、ましてや「治未病」よりもはるかにわかりやすいと思いませんか?そして誤解も少ないです。

 これは古典的に考えてもすっきりするのです。
 と言いますのは、すでに病気になってしまったものを、「未病」という言葉が出てくる『黄帝内経』の一文には、すでに病気になってしまった状態を、「已病」と呼んでいます。これを「治已病」とは呼びません。「已病」は今の言葉で言えば普通に「病気」ですが、「病気治」「治病気」とは言わないはず。普通に我々は「病気を治す」「病気治療」と言います。

 ですので、「未病治」か「治未病」か、どちらが正しいかという議論には意味はほとんどありません。

 それよりも、健康でもないけど病気でもない、病気ではないけどすっきりしているわけでもないと言う、多くの方が悩んでいる身体の不調を、「未病」という言葉で表現してもらえるようにしていくことが大切だと思います。そしてそれは、「未病」という言葉を得ることによって、次に「未病を治そう」という気持ちに向かうことができる力になるからです。


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