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『不運のすすめ』 米長邦雄著

 私は将棋を見るのは好きですが、やるのは嫌いです。

 その理由は、負けるのが嫌だからです・・・。
 負けた後のあの何ともいえない苦々しい悔しさみたいなものを感じるのが嫌なのです。

 もし仮に私がそこそこ将棋が強かったとしても、この負けた後の後味の悪さがずっと嫌いなままであれば、きっと将棋は指さないのではないでしょうか。逆に言えば、この負けることが嫌な感覚がなければ、へぼ将棋であっても、将棋を指すことがこの上なく楽しいと感じるのだと思います。

 “負けることが嫌”というのは、一見すると負けん気の強さなのかもしれませんが、しかし私の場合は、負けるのが嫌“だから”将棋をやらないという、自分の苦手分野には手を出さないという臆病さや、負けるだけの実力しかないと、自分の低い実力を認めざるを得ないという怖さがあるのではないかと思います。つまりそこには自分のメンタル的弱さがあるのだと思います。私は、負けの痛手によって、等身大の自分を直視することが怖いのだと思います。

 最初から何でもうまくできる人は少ない。
 成功があるから失敗するのではなく、順序としては、“失敗するから成功する”のほうが正しいのだと思います。負けがあるからこそ、そこに次の勝利への成長があるのだと思います。

 しかしそうは言っても、やはり負けたくはないものです。
 何事も失敗はつき物と思いつつも、失敗ばかりでは気持も落ち込みますし、また、勝負の世界で生きている方にとっては、失敗が続くことはその世界からの引退を意味するのですから、勝負をする前から負けて良いとはいえないと思います。負けを怖がる必要はない・・・しかし、「今日は負けてこよう」というわけではいけない・・。

 それでは、私たちはどのように失敗を克服し、不運を乗り越えたらいいのでしょうか?

 以前このブログでは、二人の棋士の著書を紹介しました。一つは『集中力 (角川oneテーマ21 (C-3))』谷川浩司著。そしてもう一冊は『決断力 (角川oneテーマ21)』羽生善治著。それに続き、本日ご紹介するのは、同じ角川oneテーマ21シリーズから出ている、『不運のすすめ (角川oneテーマ21)』米長邦雄著です。

不運のすすめ (角川oneテーマ21)不運のすすめ (角川oneテーマ21)
(2006/07)
米長 邦雄

この本の詳細を見る


 過去にご紹介した谷川さん、羽生さんの本に比べまして、米長さんの本は、人生読本といった趣きがあります。それは、谷川さんの本が『集中力』、羽生さんの本が『決断力』と、人生に必要な“力(ちから)”をタイトルにしているのに比べて、米長さんは人生にあってほしくない“不運”を“すすめている”のですから、それだけでどこか違います。

 運、不運に嘆き、苦しみ、自暴自棄になることがあります。しかし、運も不運も表裏一体で、運は不運の顔をしてやってくることもあります。見た目の運、不運に惑わされず、その時を如何に生きていくかということが大切なのかもしれません。
 常に運に魅入られて進む人生のほうが稀なのですから、運と仲良くするだけではなく、不運をうまくやり過ごす心持ちを学んでおくことも大切かもしれません。また同じ失敗をするにしても、意味のある失敗をしていかないと、成長の種は見つかりません。この米長さんの著書は、様々な運、不運を示し、その時々の人生の処方箋になってくれるのではないかと思います。不運の中での自分の磨き方や、不運の中でも運を導く歩み方、そういった運と不運の実体験を教えてくれています。

 米長さんの人生哲学の根底は、「ほほえみと謙虚さ」ということです。
 厳しい勝負の世界で生き抜いて方が見出した人生哲学が、“ほほえみ”と“謙虚さ”。
 大きな声で笑うのではなく、“ほほえみ”の程度にやさしさと思いやりがあり、たとえ数々のタイトルを戴冠しても傲慢にならずに“謙虚さ”を忘れない。この、常に自分自身を見失わない姿勢に、学ぶところがたくさんあると思います。 


 負けるのが嫌な私も、自分自身を磨く機械を見失わないように、謙虚な気持で、“負けること”を恐れず、負けることに内在する成長の種を学ぶため、これからも負けることを学ばないといけないと思います。


 最後に、本書にもたびたび引用されている升田幸三の言葉を引用させていただきます。

升田幸三「人生、笑えるときに笑っておけ。すぐに泣く時がくる。」

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