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新書『考えないヒント-アイデアはこうして生まれる』 小山薫堂著

考えないヒント―アイデアはこうして生まれる (幻冬舎新書)考えないヒント―アイデアはこうして生まれる (幻冬舎新書)
(2006/11)
小山 薫堂

この本の詳細を見る


 本書の著者は、『カノッサの屈辱』、『料理の鉄人』といった印象深く、かつ斬新なテレビ番組を手がけてきた放送作家であり、最近ではアカデミー賞を受賞した「おくりびと」の脚本家としても注目集めた小山薫堂氏。

 “考えないヒント”という題名からすると、そういったヒント集のようにも思うのですが、むしろエッセイのような軽いタッチの本です。しかしそのエッセイのような文章の中に、実は“考えるための考えない”ヒントがちりばめられています。

 考えると言うことは、ある意味一つのことに思考を定着してしまうことです。思考が一つのことに定着してしまうと、それは停滞であり、思考が点になってしまいます。つながりはありません。それは決して否定されることではなく、著者が本書でも言っているように、ある一つのことを深く掘り下げるという職人的なプロフェッショナルにおいてはとても大切なことになります。
 しかし著者のようにあらゆる分野でマルチな活動をするためには、思考は一つの点に留めておくのではなく、あらゆることに広く浅く関心の種を散りばめておく必要があります。興味の対象となる種を、あらゆる分野に蒔いておくことで、一点から多点となり、その多点は網の目のようにつながり、頭の中ではその点がどれもくっついていきます。そのくっつきがぐるっと巡って新たなヒントにつながっていくと言うことなのだと思います。著者はそのことを、“偶然力”といった言葉で表現しています。

 この著者の言う“偶然力”を磨くためには、“楽しむこと”なのだと著者は言います。その楽しむ琴線がどこにあるかというのは、これは小山氏独特の感覚と言ってしまえばそれまでなのですが、本書を読んで、その源泉は、何でも楽しむ、何でも受け入れるといった受容から始まるように感じました。偏見を持たずに相手を受け入れ、そして相手の良いところを見出そうとする感覚は、決して考えて産まれるものではなく、皮膚感覚で感じるもので、まさに“考えない”ことが秘訣なのかもしれません。

 かといって、何も考えていないのかというとそうではなく、どこかしらで考えてはいるわけです。そして皮膚感覚で得たたくさんの種をつなげて形にするときは、考えることが必要となります。考える前に考えないためのヒント、そんな生活術、仕事術がこの本に込められていると思います。

 私がこの本を読んで感心したことは、小山氏がプロフェッショナル・職人をリスペクトしているところです。私は鍼灸師という職人で、日々の時間の多くを東洋医学・鍼灸のために割いています。そのために、様々な趣味を断念したりしたこともありますし、小説などの本はほとんど読めなくなってしまいまいした。それはかつての自分からすると寂しいことではあるのですが、プロフェッショナル・職人を目指す上では仕方のないことです。時にそれがリスペクトされないことに(といいますか、自分の中で自分自身をリスペクトできなかったり、隣の芝生が青く見えてしまうと言うことなのですが・・・)一抹の寂しさを感じることがありました。しかしこのようなマルチに活躍されている方が憧れている存在が、我々のような職人気質であることを知り、何だか自信を回復しました。

 と、長々と書いてきましたが、本書は軽快なリズムで読むことができ、そして軽快な思考とそのつなげ方のヒントを理解することができます。息抜きにもなりますし、様々な分野の方にお奨めの一冊です。

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