中国の金の時代(元の後の短い王朝)の古医書に『儒門事親(じゅもんじしん)』というものがあります。この書名は、「ただ儒者のみが、よく明らかに弁ず。而して親に事うる(つかうる)者知らざるべからず(親を敬うことが儒家の最大の徳目とされているので)」という意味からきたものです。
著者は、金元四大家の一人、張従正(ちょうじゅうせい)です。張従正は、1156~1228年の間に活躍した医家で、攻邪論というものを提唱したことで、金元四大家の一人に挙げられています。攻邪論とは、病気の原因は邪にあり、その邪を外に出すことが病を治す最善の方法であるというものです。その方法としては、汗(汗を出す)、吐(吐いて出す)、下(便を出す)という3つを重視しています。
張従正は、いずれも東洋医学の原典である『黄帝内経』などを基にして発展させたものですが、全てを汗・吐・下に集約すると言う偏りがあるように思われます。そのため、個人的には全てをそのまま指示することはできないのですが、そのような偏りを理解し、そのあたりを抜きにしますと、張従正の『儒門事親』はとても参考になる部分があります。そこでぱらぱらとめくっていたところ、とても興味深いところがありましたので、ご紹介しておきます。
『儒門事親』の巻一に、「過愛小児反害小児説 九」というのがあります。この表題は、「小児を愛し過ぎることは、反って小児を害することがあるという説」という意味になります。赤ちゃん、小児は、か弱く、言葉も話せませんので、ついつい過剰に保護をしてしまいますが、それが反って赤ちゃんや小児を害していることにもなりかねませんよ・・・ということなのです。
順を追ってここの記述を見ていきます。
「小児が生まれたてのとき、腸胃はとても弱いもので、お腹は減りやすく、また一杯になりやすい。虚しやすいし、実しやすい。寒くなりやすいし、熱しやすい。このことは古い本に書いてあり、世間の人はみんな知っていてもいいようなものなのに、みんな知らないではないか!」と嘆いて始まります。小児は身体も小さいので、変化も激しいものです。そういったことは昔から言われているのに、今の人はそれを分かっていないと、張従正は憂います。
「『礼記・曲礼(らいき・きょくれい、書物の名前)』には、童子は衣服を着ないと書いてある。『礼記集説』にも衣服はたいそう温めるので、陰気を消してしまうと書いてある。また、十五歳になったものでも、衣服を着ることは許されないものである。」
「しかし、今の人は、稚児を育てるのに、真夏のときでさえ厚手の衣服を着せている。これでは気が蒸せてしまう。寒い季節のように、密封してしまうと、大そうな暑さを外に洩らすことができない。老人でさえもこんなことをしてはいけないのに、ましてや純陽の幼児にするとは何事か!」
真夏の暑さの下で、厚手の衣服を着せておくことは、熱を外に逃がすことができない。小児は純陽と言いまして、陽の気で満たされていますので、本来から熱に満ちているものです。熱くなりがちな純陽の小児に衣服を着せておくことは、熱くさせすぎてしまうということを警告しております。
このように、先ず張従正は、厚手の衣服を着せて熱がこもってしまうことを戒めております。特に本文にも真夏と挙げられていますように、この夏の季節は気温が既に暑いものですので、よく考慮する必要があるように思います。
暑い国に住む人々の生活を見ていますと、確かに子供は裸の状態が多いように思います。これは、生活レベルの問題だけではなく、暑い国に生きる人々の、昔からの知恵なのかもしれません。日本の夏も湿気が多く、かなり気温が上がります。冷房のかかりすぎによる冷えもありますが、この記述を参考に、こまめに小児の衣服を変えてみてはどうでしょうか。
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