Q. 耳ツボは東洋医学ですか?
2008 / 03 / 07 ( Fri )
A. 個人的見解では、耳ツボは東洋医学ではないと思います。

 “個人的見解では”と注をつけましたのは、東洋医学をどのように定義するかによって意見が分かれるからです。当院のホームページや、このブログ「鍼たま」では、一般の方にも判りやすいように、これまで「東洋医学」という言葉を使ってきました。しかし、この「東洋医学」という言葉は、一般の方だけではなく、我々プロにとっても、思っている以上に曖昧なところがあります。その定義については、明日述べようと思いますが、私自身が持っている“東洋医学観”や、私がしている“東洋医学の鍼”という見解からいきますと、“耳ツボは東洋医学ではない”と思います。
 私は治療の指針を、『黄帝内経・素問』、『黄帝内経・霊枢』、『難経』といった鍼灸医療の原典に重きを置き、更に参考として、その後に書かれた『脾胃論』(李東垣)、『類経』(張介賓)、『奇経八脉巧』(李時珍)などをはじめとする古医書を参考の中心にしています。また、こういった古医書の原著に加え、現代に書かれた中医学の基礎理論の本なども読んでおりますが、こういった書物の中に、いわゆる“耳ツボ”“耳鍼”といったものは出ておりません。原典には耳ツボについて書かれていませんので、もちろんそれを使った治療もありませんし、その後の古医書にも耳ツボが出てくることはありません。こういった書物を重視する私のような立場の者からは、耳ツボを東洋医学に含めることは出来ないと思います。
 しかし、現代生理学的な面(経絡は神経的なものであるという見解)から、鍼灸やツボというものを捉えている先生の中には、耳ツボも東洋医学に含んでいる方もいるようです(中には『黄帝内経』の中に、すでに耳ツボの記述があると主張している方もいますが、これは明らかに間違っています。)。
 鍼灸の発祥地である中国では、実際に耳ツボの研究がされているようですが、その歴史は、私が知るところでは、ごく最近、中華人民共和国になってからの話しではないかと思います。中華人民共和国になり、鍼灸の近代化、鍼灸の可能性の拡大を鼓舞された時代があり、針麻酔をはじめ、様々な分野へ鍼灸を応用することが奨励されていましたが、その中の一環から耳ツボが出現したのではないかと思います。そしてそれが現在にも残っているのだと思いますが、それで耳ツボが鍼灸の主流になったのかというと、そういったことはなく、あくまでそれは一つの分野に留まっているにすぎません。
 また耳ツボと言いますと、中国ではなく、フランスのポール・ノジエによる耳介神経刺激の研究というものが有名で、こちらの方がより体系化されているようにも思いますが、これでもまだ医療にどこまで応用できるかは未知なのではないでしょうか。
 こういった中国での研究や、ノジエの研究などが混在していくうちに、何となく、ツボ=東洋医学というイメージから、耳ツボも東洋医学に入れられたのではないかというのが私の見解です。
 実際に耳ツボらしきものがあることは、生理学的な研究からは証明されているようなので、その存在を完全に否定をすることは出来ません。そういった基礎研究を積み重ねることで、新しい鍼灸が生まれる可能性はあるかもしれませんし、それが良いもので、病が治ると言うのであれば、私も積極的に取り入れたいと思っています。
 しかし、現在のところ、耳ツボが臨床に使えるかどうか、医療としてのレベルに達しているのかというと、私はまだ使えるものではないと感じています。耳ツボは新しいものだからと飛びつくよりも、むしろ、2千年の智慧の詰まった古医書を研究し、それを臨床に応用したほうのがはるかに有効であると、臨床の立場から考えております。


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